それが愛によるものではないことだけは確か。寵姫ヒュッレム比類なき栄光の理由ー「夢の雫、黄金の鳥籠」考察④
「夢の雫、黄金の鳥籠」は現在12巻。
ハレムにおける第一夫人ギュルバハルとの争いを制し、物語の主軸は皇位継承争いに。
そのなかでヒュッレムは後見であり、愛したかつての主イブラヒムとの対立を深めていく。
スレイマン一世の求めたものはなんだったのか
これまでの創作においてスレイマン一世は
- ヒュッレムへの寵愛
- イブラヒムとの友愛
が描かれることが多かったのですが、「夢の雫、黄金の鳥籠」におけるスレイマン一世はヒュッレムにさしたる興味もなければイブラヒムに対するマイン・フロイント感は微塵もない。
12巻が経過してもなおスレイマン一世の行動原理が提示されていないのである。
これは作者の篠原氏かなり意図的というか、意地悪だなーと思って見ています。
”愛ではない”ものを描く
私がオスマン帝国、そしてスレイマン一世関連の創作に初めて触れたのは高校生の時に読んだ「緋色のヴェネツィア―聖マルコ殺人事件」(塩野七生作)。
「夢の雫、黄金の鳥籠」にも登場するヴェネチア出身のアルヴィーゼがメインキャラクターとして登場する話。
こちらの作品でヒュッレムは、スルタンの寵を背景に政治に口出しするロシア女として描かれる。
印象的なのは以下の描写。
「そう思うとマルコの頭の中に、そのとき突然、二人の女の姿が浮かんだ。リヴィアと、そしてスルタン・スレイマンが皇后にするほども愛した、ロッサーナの二人だった。
・・・・二人とも彼女たちの愛した相手の男たちは、まっすぐに進めたかもしれない道を、曲がってしまった。」