「偶像崇拝の禁止と尾形」ゴールデンカムイ 偶像について考察①

今回はその目的や意図がイマイチ不明な尾形について考察。

【天から役目なしに降ろされた物はひとつもない】
作品の根幹を為すアイヌの教え。
尾形に与えられた役目は何なのか考えてみると、勇作さん・アシリパ・そして鯉登少尉にとっての鶴見中尉と、作中で尾形は”偶像を破壊する役回り”を担っています。

唐突なマタイ

にせ預言者を警戒せよ。彼らは、羊の衣を着てあなたがたのところに来るが、その内側は強欲なおおかみである。
(マタイによる福音書 第7章)

71話の扉絵で唐突にマタイが引用されます。

父花沢中将との会話で尾形は「愛」「神」「祝福」といった言葉を発し(103話)、鶴見中尉の回想では聖母子像が描かれているように(177-178話)、尾形や鶴見中尉にはキリスト教的世界観が模されています。

ちなみにマタイ第7章はこう続く。

あなたがたは、その実によって彼らを見わけるであろう。
茨からぶどうを、あざみからいちじくを集める者があろうか。
そのように、すべて良い木は良い実を結び、悪い木は悪い実を結ぶ。
良い木が悪い実をならせることはないし、悪い木が良い実をならせることはできない。
良い実を結ばない木はことごとく切られて、火の中に投げ込まれる。

真実ではなく甘い嘘を語るのはにせ預言者
このままいくと鶴見中尉は火の中に投げ込まれてしまいそう。

偶像を作り出す罪人たち

一方偶像崇拝旧約聖書の世界で重い禁忌となっています。

偶像を作り出そうとした花沢中将・ウイルク、偶像を演じた勇作さんを殺した尾形は、キリスト教的世界観において偶像を打ち壊した「神の意にかなうもの」という解釈もできる。

ゴールデンカムイ 8 (ヤングジャンプコミックス)

ゴールデンカムイ 8 (ヤングジャンプコミックス)


人類最初の殺人

聖書の世界において兄弟間の話で有名なのは、創世記第4章の「カインとアベル」。
人類最初の殺人として有名な逸話です。

アダムとエバの子供である兄カインと弟アベルが主役の話。二人は神に捧げ物をするが、ヤハウェ(神)は弟アベルをえこひいき。嫉妬したカインはアベルを殺す。人類最初の殺人事件である。

honeshabri.hatenablog.com

知恵の実を食べ楽園を追放されたアダムとイブに続く、人の犯した第二の大罪。

一神教の世界になじみのない者としては、殺された弟・・・なんだったんですかね的な感想を抱く話ですが、尾形にとっての”最初の殺人”は勇作さんと見てほぼ間違いないでしょう。

罪人は地上の放浪者になる

神は弟殺しをしたカインを追放し地上の放浪者としながら、「カインを見付ける者が、だれも彼を打ち殺すことのないように、彼に一つのしるしをつけられた 」。

神の与えた殺人の罪に対する罰は、死ではなかった。

弟を殺した兄カインが向かうのは、あの有名な「エデンの東」です。


次回、尾形とエデンの東について考察予定。